衒学者の回廊/滞米中の言の葉(1993-1994)

帰国者は迫害される

これは外国で暮らす者の神経過敏な考えすぎと思いたいところだが、存在すると考えた方がよさそうだ。

我々外国で暮らす日本人は、好むと好まざるとに関わらず、日本から一歩も外に出たことのない人や暮らしたことのない人とは明かに異なる祖国に対する意識や国際感覚を発展させる可能性を持つ。もちろんこういう持って回った言い方をするのも、海外で暮らせば誰もが必ずそうした意識を持つのだと断定できるわけではないからだ。

しかし、まったく違った考え方や常識が存在し、世界には様々な種類の人々がそれぞれの方法で、生きているということを知るのは、日本で暮らしていただけでは容易に得ることが出来ないと言うことはできると思う。さて、海外生活者は自分の祖国を外から見ることが出来たという意味で、自国の批判者になり得る。

一方、人は誰しも自分のことを批判されるのを好まない。心の奥底で批判者が正しいことを言っていると分かっていても、それを認めるのは容易ではない。我々はそうした批判者、もしくはその予備軍達を本能的に知り、それを無意識に排除しようという行動にでてしまうのかもしれない。つまり、こうした人間の限界 的傾向から考えれば、海外に一度出た人々に対して一種警戒の念を抱いてしまうとしても、それは仕方のないことなのかも知れない。

むろん海外に一度出たからと言って、その人達が必ずしも大したことを学んで帰ってくるとも限らない、ということはあり、うまい具合にそのような「事例」が見つかれば、中傷者に「このときとばかりに攻撃する」きっかけを与えてしまう結果 になっているのは、残念ながら遠からず本当のことのようである。


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